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横浜地方裁判所小田原支部 平成2年(ワ)350号 判決

神奈川県足柄上郡大井町金子一八三九番地二

原告

産輸システム技販株式会社

右代表者代表取締役

白井秀昭

右訴訟代理人弁護士

及川昭二

松石献治

山形県鶴岡市大字中野京田字大坪五番地

被告

株式会社広田製作所

右代表者代表取締役

廣田豊實

右訴訟代理人弁護士

吉永順作

新長巌

主文

一  被告は原告に対し、金八四四万五六〇〇円及びこれに対する平成二年八月二八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項について、仮に執行することができる。

事実および理由

第一  請求

被告は原告に対し、金一六九八万四三五〇円およびこれに対する訴状送達の日の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

(争いのない事実など)

原告は、輸送システム技術の販売・相談・指導および開発、輸送機械及び工具類・車両・計算機に関する輸出入ならびに販売等を目的として、昭和四六年三月二七日に設立された株式会社であり、被告は、荷締機の製造、販売、各種機械の製造・販売等を目的として、昭和三九年七月三一日に設立された株式会社である。

(当事者双方の主張)

一  原告は、原告代表者白井秀昭の創作にかかる登録意匠第五二六五八五号を同人から実施許諾を受けて実施し、別紙(一)記載のパネル用接合機(以下原告製品という。)を製造・販売し、右販売に際しては別紙(三)記載の商標(以下原告商標という。)を付して使用してきたところ、原告製品の形態と商標は、遅くとも昭和六二年五月ころには住宅建築業界において、周知性を取得し、不正競争防止法一条一項一号に定める商品表示性を取得した。

被告は昭和六二年八月ころから、別紙(二)記載のパネル用接合機(以下被告製品という。)の製造販売を開始し、右製品に別紙(三)記載の商標(以下被告商標という。)を付して平成元年五月二〇日までその製造販売を継続した。

原告製品と被告製品の形態および原告商標と被告商標は、類似しているために、出所混同が生じ、原告の営業上の利益が侵害されたので、原告は、被告に対し、不正競争防止法に基づいて、損害の賠償を求めるものである。

二  被告は、原告製品はもともと被告が開発販売してきた被告の製品であるとするとともに、原告製品の形態と商標の周知性及び原告商標を付した原告製品と被告商標を付した被告製品との類似性を争うものである。

(争点)

1  原告製品は原告が被告に製造を委託し、被告がこれを製造し、原告に供給してきたものか。原告商標は被告が考案したものか。

2  原告商標と原告製品の形態は周知性を取得したか。

3  被告商標と被告製品の形態は原告商標と原告製品の形態と類似し、出所混同するか。

第三  当裁判所の判断

争点一について

(一)証拠(甲一、二の各一、二、同三、一三、二二、二三、乙三、四、五、一八、一九、二〇、二四、二五、検甲一、二の各一、二、検証の結果、原告代表者本人尋問の結果、被告代表者本人尋問の結果の一部)によれば次の事実が認められる。

1  原告代表者が原告会社とは別に経営していた産業輸送開発株式会社と被告とは昭和四九年ころから取引が始まり、荷締機の販売のほか、原告が住宅建築関係に明るいのに対し、被告は同業界には縁がなく、かつ、住宅建築用の機器に関する知識もなかったところから、原告の発注により被告が製造した住宅建築用の吊り下げクランプを原告に納入し、これを原告がミサワホームなどに販売していたが、右産業輸送開発株式会社が事実上倒産したため、昭和五二年五月一四日に、原告との間で産業輸送開発株式会社との契約と同様の契約(乙四)を締結した。

2  その後、原告は住宅用のパネル接合機の改良を企て、当時市販されていたヒッパラーやシメラーなどの他社製品を参考にしながら、それと同時に被告会社のトラック輸送などの際の積み荷の落下を防ぐための荷締機が本体ボックスとL型コーナー金具が分離しているのを一体化して、パネル接合機に転換することを考案し、被告に何度もスケッチ図などを示しながら、試作を指示して、原告製品を完成させた。

3  同時に原告代表者が以前自動車修理工をしていた経験から、原動機の回転力を示すのにトルクという用語を使用することにヒントを得るとともに、原告製品には、ワイヤーが不可欠であることから、これを結合して、トルクワイヤーという名称を思いつき原告商標を考案した。

4  その後、昭和五三年ころから、被告は原告の発注に応じて原告製品を製造し、これに原告商標を付して原告に納入し、原告はこれを買い取って、ミサワホームなどに販売してきたもので、後記原告の倒産に至るまでは、被告は、原告以外に納入したことはなかった。

5  原告代表者は昭和五三年四月二六日に原告製品につき、パネル用接合機として意匠登録の出願をするとともに、昭和五四年八月一日原告商標について商標登録の出願をし、右はそれぞれ、同五四年一二月二五日、同五九年一月二六日に登録されたが、被告はこれを知った後もなんら異議を唱えなかった。

6  その後、原告は昭和五八年から同五九年にかけて手形の不渡りを出して取引停止処分となり、被告から納入された商品の代金支払ができなくなり、原告製品を被告に返却したところ、被告がこれを原告を経由せずミサワホームに売却したことから、不和を生じて、昭和六二年五月二九日原告と被告間の取引を終了させることとなり、解約合意書(甲二二)が作成され、これには、「甲(原告)および乙(被告)は、乙の申入れにより、甲が乙に製造を発注していたトルクワイヤー、床吊りフック、ハンガークランプの継続的製造委託契約ならびにこれに関する一切の甲乙間の契約を解除することを合意する。」旨の記載がある。

7  また、同日被告から原告宛の確約書(甲二三)が作成されたが、これには、「ハンガークランプ、トルクワイヤー、床吊りフックの三点につき、本日、貴社と当社は、製造委託契約を全面的に合意解約しましたので、本日以降、同各商品の製造、部品の製造ならびに、事由の如何を問わず、これらの第三者への供給は一切いたしませんことをここに確約いたします。」旨の記載がある。

(二)そこで判断するに、以上認定の事実ならびに前記争いのない事実、即ち、被告は原告と知り合うまでは住宅建築関係の機器についてはなんら知識も製造・販売実績もなく、製品の開発・製造・販売にあたっては原告に全面的に依存せざるを得なかったこと、原告製品の製造に至るまでの経過、原告商標考案に至る経緯、原告が原告製品につき意匠及び商標登録をした後も被告は何らの異議も唱えていないこと、解約合意書、確約書にも「製造委託」なる用語が使用されていることが認められることからすると、原告商標は原告の考案にかかる商標であり、原告製品は原告の製品で、被告はその製造を委託されたにすぎないと解するのが相当であり、被告の主張は採用できない。

争点二について

証拠(甲七、九、原告代表者本人)によれば次の事実が認められる。

原告は昭和五三年夏ころから同六二年夏ころにかけて、原告商標を付した原告製品を主としてミサワホームないし東京ミサワホームの関係業者約一〇〇社に約四〇〇〇台販売したこと、住宅建築業界に類似の商品はなかったこと、昭和五九年一〇月二六日以降に、原告代表者作成の原告商標トルクワイヤーの文字及び原告製品の写真を掲載した「住宅・物流・組立マニュアル」と題するパンフレット約二〇〇部を、同六二年夏ころに「トルクワイヤー」なる文字及び原告製品の図面並びに説明文を掲載した原告発行の表示のあるパンフレット約五〇〇〇部をそれぞれ住宅建築業者に頒布したこと、

そうすると、住宅建築用パネルを使用する業界が広くないことや類似商品がなかったことに鑑みると、原告商標はおそくとも昭和六二年夏ころまでには住宅建築業界において周知性を取得したものと認めることができる。

争点三について

原告商標と被告商標は、別紙(三)のとおりである。

両者を比較すると、

1  商標の大きさ、長辺と短辺の比率、二重の線による外枠、白地に文字を青色の枠線で画した「トルク」の文字、右下の赤字に白抜きの文字、これらの配置の仕方は、全く同一である。

2  呼称としては、原告商標は「トルク」の部分が、一般的には、馴染みの薄い呼称であるために、強い印象を与えるものであり、原告商標は、この三文字に約六割の面積を与えてこれを強調する構成であるところ、被告商標もこれと同一である。

3  しかも原告商標の「トルク」の字体は、変形を加えた特徴を備えたもので、各文字は青色で周囲を画した書き方であるところ、被告商標も全く同一である。

4  両者は、面積の二割弱を占めるに過ぎない、赤地に白抜きの文字で表示された、原告商標の「ワイヤー」と被告商標の「タイトナー」の文字が相違するだけであり、この部分は、商標に占める大きさの割合が小さいためと、その呼称も「トルク」に比較すると、一般名称に近いところから、強い相違印象を与えるものではない。

以上要するに、原告商標と被告商標とは、類似性が高く、商標自体の比較だけをもってしても、商品の出所混同を生じさせるものである。

加えて商品の形態は、商品の機能を発揮させる目的で選択されるものであって、出所表示を目的とするものではないけれども、その形態自体が商品の技術的機能に由来する必然的なものでない限り、独自の特徴を有することによって、商品の主体を識別する機能をも有するものであるところ、原告製品と被告製品とは、被告が指摘する微小な形状の相違があることは認められても、住宅建築業界が広くなく、同一機能を目的とする競合商品が業界になかった背景の中でみると、技術的機能に必ずしも由来しない形態において部分的に類似するところが多く、全体的にも類似した形態であるうえ、その色彩においても同一系統色が使用されており、両者を並べ置いて部分及び全体の形態を対比しても、被告製品は、せいぜい原告製品の同一会社製の改良品という印象をあたえる程度の相違しかなく、その類似性が肯定されるのであって、前記の原告商標と被告商標との高い類似性とあいまって、被告製品は、原告製品と商品の出所混同を生じさせる類似性があると判断される。

損害賠償額について

前認定のとおり、被告は昭和六二年五月二九日の合意解約及び確約書提出後に被告製品を販売したのであるから、被告は故意または過失により原告に損害を与えたと認められ、被告は原告に対し損害賠償をする義務がある。

被告が、昭和六二年八月以降に被告製品八一六台を販売したことは当事者間に争いがないところ、甲三七号証によれば、原告製品の正規の販売価格は一台あたり二万九五〇〇円、実際販売価格は平均でその七〇パーセントの二万六五〇円、被告からの仕入価格が一万三〇〇円で、差引一台あたりの利益は、一万三五〇円となり、これに販売台数八一六台を乗じた金八四四万五六〇〇円が原告の受けた損害となる。

なお、原告の昭和五九年一一月から同六二年五月までの販売分についての請求は、被告製品の販売が昭和六二年八月以降であることからして、失当である。

結論

以上によれば、原告の請求は損害賠償金八四四万五六〇〇円及びこれに対する訴状の送達の日の翌日である平成二年八月二八日から完済に至るまでの年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、これを認容し、その余は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中昌弘 裁判官 松井賢徳 裁判官坂本重俊は、退官のため署名捺印することができない。 裁判長裁判官 田中昌弘)

別紙(一)

「原告製品外観形態図面」

「原告製品外観形態説明書」

〈省略〉

本件原告製品(検甲第一号証の(一)(二)・パネル用接合機)の

外観形態の説明書

原告製品現品の外観形態(図面・写真により特定)は、左記一及び二の各意匠的構成から成る。

一.第一図面及び写真(トルク本体)意匠構成

(一) 横長形状の背板の一端部を二重に折り曲げ、上方に開口する大きなフックを設け(第一図面第一要件という)

(二) その内方下面に巾広いL型状のパネル受け金具を設け(同第二要件)

(三) 把手部(ニギリ)は、背板中央部に直線パイプ状に固着し(同第三要件)

(四) 背板の他端には大径の巻取りドラム、バネ軸、ワイヤー抑え軸を収容し、ワイヤー側を解放端とした長方形の枠体を設け(同第四要件)

(五) その両側に大径ラチェットギヤーと、ラチェット爪を設け(同第五要件)

(六) その内側に、駆動レバーの両脚を固定し(同第六要件)

(七) 解放端部にワイヤー抑え軸を横架した(同第七要件)

(八) 右(一)乃至(七)の各形状の一体結合から成るパネル用接合機(検甲第一号証の(一))の本体の形態である(同第八要件)

二.第二図面及び写真(付属品コーナー)の意匠構成

(一) 横長背板の一端に上方に開口するフックを形成し(第二図面第一要件)

(二) その内方下面にパネル受け金具を固着形成し(第二要件)

(三) 把手部(ニギリ)は背板中央部に直線パイプ状に固着し(第三要件)

(四) 背板の他端を折り曲げて、その内方下面にL型状のパネル受け金具を固着した(第四要件)

(五) 右一乃至四の各形状の一体結合から成るパネル接合機の付属品コーナー(検甲第二号証の(二))の形態である(第五要件)

(以上)

別紙(二)

「被告製品外観形態図面」

「被告製品外観形態説明書」

〈省略〉

本件被告製品(検甲第二号証の(一)(二)・パネル用接合機)の

外観形態の説明書

被告製品現品の外観形態(図面・写真により特定)は、左記一及び二の各意匠的構成から成る。

一.第一図面及び写真(トルク本体)意匠構成

(一) 横長形状の背板の一端部を二重に折り曲げ、上方に開口する大きなフックを設け(第一図面第一要件という)

(二) その内方下面に巾広いL型状のパネル受け金具を設け(同第二要件)

(三) 把手部(ニギリ)は、背板中央部にU字パイプ状としてその端部を背板の上方膨出部の基部に固着し(同第三要件)

(四)背板の他端には大径の巻取りドラム、バネ軸、ワイヤー抑え軸を収容し、上面を丘状にし、かつワイヤー側を解放端とした長方形の枠体を設置し(同第四要件)

(五) その一側ににのみ、一個の大径ラチェットギヤーと、ラチェット爪を配し(同第五要件)

(六) その外側に、駆動レバーの両脚を固定し(同第六要件)

(七) 解放端部にワイヤー抑え軸を横架した(同第七要件)

(八) 右の乃至(七)の各形状の一体結合から成るパネル用接合機(検甲第二号証の(一))の本体の形状である(同第八要件)

二.第二図面及び写真(付属品コーナー)の意匠構成

(一) 横長背板の一端に上方開口するフックを形成し(第二図面第一要件)

(二) その内方下面にパネル受け金具を固着形成し(第二要件)

(三) 把手部(ニギリ)は背板中央部にU字パイプ状に固着し(第三要件)

(四) 背板他端を折り曲げて、その内方下面にL字型パネル受け金具を固着した(第四要件)

(五) 右(一)乃至(四)の各形状の一体結合から成るパネル接合機の付属品コーナー(検甲第二号証の(二))の形態である(第五要件)

(以上)

別紙(三)

「原告商標と被告商標との比較

(原告商標)

〈省略〉

(被告商標)

〈省略〉

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